看護師留学の流れ(準備〜渡航〜資格取得まで)
1. はじめに
看護師として海外で学び、働くことを目指す「看護師留学」は、単なる語学留学とは異なり、キャリア形成に直結する大きな挑戦です。
留学先の国によって必要条件や資格制度は異なりますが、一般的には 語学力の向上 → 専門課程での学習・実習 → 国家試験の受験 → 資格取得 というステップを踏むことになります。
特に看護師留学は、事前準備の段階でやるべきことが多く、また渡航後も学習と実習を並行して進める必要があるため、全体の流れを把握しておくことが非常に重要です。
本記事では、看護師留学を考える方に向けて、準備から渡航、学習・実習、そして資格取得までの一連のプロセスを整理して解説します。留学を具体的に検討している方はもちろん、まだ情報収集の段階にある方にとっても、全体像を掴むガイドラインとして役立てていただけます。
2. 準備段階
看護師留学は、渡航してから始まるのではなく、実は渡航前の「準備段階」が最も重要です。ここでの取り組み次第で、その後の学習や資格取得がスムーズに進むかどうかが大きく変わってきます。
(1)情報収集
まずは、自分に合った留学先を見つけるために、各国の制度や条件を徹底的に調べる必要があります。
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主な留学先:アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピンなど 
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確認すべき点:必要な英語力、留学期間、費用、ビザの種類、現地での資格取得の流れ 
 国ごとに求められる条件が大きく異なるため、まずは自分の目標(例:現地就職、日本でのキャリアアップ)に合う国を選ぶことが第一歩です。
(2)語学力の準備
多くの国では IELTSやTOEFL などの公式スコアが必要となります。看護師国家試験や大学の看護課程はすべて英語で行われるため、専門用語を含めて高い英語力が求められます。
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語学学校(例:フィリピン留学)で短期間集中して英語力を高める 
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日本にいる間にオンライン英会話や医療英語教材で準備する 
 留学を成功させるためには、この語学対策を早めに始めることがカギとなります。
(3)書類準備
看護師留学では、提出する書類の量も多く、また翻訳や公証が必要なケースが多いため、早めに取り掛かることが重要です。
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看護師免許証(翻訳・公証が必要) 
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学位証明書、成績証明書 
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パスポート(有効期限の確認) 
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ビザ申請に必要な書類一式 
特に、書類の認証や翻訳には時間がかかるため、余裕を持ってスケジュールを立てましょう。
3. 渡航前の手続き
準備段階を終えたら、実際に留学に向けた手続きを進めることになります。ここでの流れをきちんと踏むことで、現地到着後にスムーズに学習をスタートできます。
(1)入学手続き
希望する大学や看護プログラム、あるいは語学学校の入学申請を行います。
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願書の提出 
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必要な語学スコアの証明 
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推薦状や志望動機書の提出(国や学校によって必要) 
 合格通知を受け取った時点で、ビザ申請や渡航準備が本格的に進みます。
(2)ビザ申請
学生ビザの取得は、看護師留学の大きなハードルのひとつです。国によっては審査に数か月かかることもあるため、早めの申請が必要です。
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学生ビザ(Student Visa) 
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ワークビザ(就労を伴う場合) 
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滞在可能期間の確認 
 万が一、ビザが下りなければ留学自体が難しくなるため、必要書類の不備がないか慎重にチェックしましょう。
(3)住居の手配
留学先での生活拠点を事前に決めておくことも重要です。選択肢は以下のように分かれます。
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学生寮(学校に近く、生活に必要なものが揃っている) 
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ホームステイ(現地文化を学びやすい) 
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アパートやシェアハウス(長期滞在や独立志向に向いている) 
 留学初期はサポート体制がある学生寮やホームステイを選び、その後必要に応じて移るケースもあります。
(4)保険加入
海外での医療費は非常に高額になることが多いため、保険への加入は必須です。
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海外留学生保険 
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現地での医療保険 
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学校指定の保険(加入義務がある場合も) 
保険は「治療費だけでなく、事故・盗難・緊急帰国」にも対応しているか確認すると安心です。
4. 渡航後の流れ
入学手続きやビザ申請を終えて無事に渡航した後は、いよいよ現地での学習と生活が始まります。渡航後は環境の変化に対応しながら、語学力・専門知識・実践経験を積み上げていくことが大切です。
(1)語学学校または大学での学習
多くの看護師留学生は、まず語学力を強化するところからスタートします。
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語学学校:日常英会話や医療英語、専門用語の習得 
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大学・専門課程:看護学に必要な基礎知識、現地の医療制度、臨床理論を学ぶ 
 特に英語が母国語でない留学生は、最初の語学研修で学びの土台を築くことが成功のカギとなります。
(2)臨床実習・病院研修
看護師として資格を得るためには、現地の病院での臨床実習が必須です。
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病院やクリニックでの実習を通じて、現地の医療現場を体験 
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コミュニケーション力、文化的な感覚の違いを学ぶ 
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医療機器の扱い方や、患者との接し方の違いに慣れる 
この段階では、単なる知識習得ではなく「実際の現場で使える力」を養うことが重要になります。
(3)生活環境への適応
学習だけでなく、日常生活に慣れることも大切です。
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交通機関の利用方法や日常の買い物 
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現地の習慣や文化を理解する 
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学校の仲間や現地の友人との交流 
生活面での安定が、勉強や実習の集中度を高めることにつながります。
5. 資格取得のプロセス
看護師留学の大きな目標のひとつが、留学先の国で看護師として働くための資格を得ることです。国によって制度や試験の内容は異なりますが、一般的には以下のステップを踏むことになります。
(1)試験準備
各国には独自の国家試験制度があります。
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アメリカ:NCLEX-RN(看護師国家試験) 
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イギリス:OSCE(客観的臨床能力試験) 
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オーストラリア / ニュージーランド:現地看護審議会の試験や実習要件 
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カナダ:NCLEX-RNを採用 
 試験内容は高度な英語力と専門知識を問われるため、数か月〜1年以上かけて準備するのが一般的です。予備校や試験対策コースを活用する留学生も多いです。
(2)試験受験
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筆記試験やオンライン試験、臨床スキルを測る実技試験など、多様な形式がある 
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高度な専門英語で出題されるため、リスニングやリーディング力も不可欠 
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一部の国では複数回の受験が可能で、合格まで挑戦できる環境が整っています 
(3)合格後の流れ
国家試験に合格すると、正式に現地で看護師として働くためのライセンスが付与されます。
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看護師免許の登録(各国の看護協議会や登録機関に申請) 
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就労ビザへの切り替えや永住権の申請に進むケースもある 
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日本に帰国し、留学経験をキャリアアップに活かす選択肢もある 
資格を取得することはゴールであると同時に、新しいキャリアのスタートでもあります。
6. 留学後の進路
看護師留学を終えて資格を取得した後は、それぞれの目標に合わせて多様な進路が開かれます。選択肢は大きく分けて「現地での就職」「日本への帰国」「国際的なキャリア」の3つです。
(1)現地で就職
国家試験に合格しライセンスを取得すれば、現地の病院やクリニックで働くことが可能になります。
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人材不足が深刻な国(例:アメリカ、オーストラリア)では、留学生看護師の需要が高い 
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高い給与水準や充実した福利厚生を得られる可能性がある 
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就労ビザや永住権につながるキャリアパスもあり、長期的な生活基盤を築ける 
(2)日本に帰国してキャリアアップ
留学経験と資格を活かして、日本でのキャリアを広げるケースも多いです。
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医療英語を活かし、国際病院や外資系医療機関で働く 
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海外経験を評価され、教育・研究・マネジメントの分野で活躍 
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看護教育機関で「国際看護」の講師として活動するケースも 
(3)国際的な医療機関やNGOでの活動
留学経験を通じて得た語学力と国際感覚は、世界中で活かすことができます。
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国際的な医療団体やNGOでのボランティア活動 
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発展途上国での医療支援 
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国際医療ツーリズムの分野での活躍 
看護師留学を経て得られる進路は一つに限られず、自分のビジョン次第で大きく広がっていきます。
7. まとめ
看護師留学は、短期の語学研修とは異なり、キャリア形成に直結する大きな挑戦です。その流れを整理すると、
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準備段階:情報収集・語学力対策・書類準備 
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渡航前の手続き:入学申請・ビザ取得・住居や保険の手配 
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渡航後の学習:語学研修・専門課程での学び・臨床実習 
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資格取得:各国の国家試験に合格し、ライセンスを取得 
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留学後の進路:現地での就職、日本でのキャリアアップ、国際的な活動 
というプロセスを踏むことになります。
特に重要なのは 語学力の習得と計画的な準備 です。十分な英語力と制度理解があれば、現地での学習や資格取得がスムーズになり、その後のキャリア選択肢も大きく広がります。
看護師留学は、決して簡単な道ではありませんが、挑戦することで「世界で通用する看護師」としての可能性を手に入れることができます。自身の将来像を明確に描きながら、一歩ずつ準備を進めていきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 看護師留学の準備にはどれくらいの期間が必要ですか?
A1. 一般的に6か月〜12か月を見込みます。語学試験(IELTS/TOEFL)、成績・免許の翻訳と公証、資格評価、ビザ申請、住居・保険手配などを逆算して計画しましょう。
Q2. 必要な英語力(スコア)の目安は?
A2. 国・学校により異なりますが、目安はIELTS Academic 6.0〜7.0(各セクション基準あり)またはTOEFL iBT 80〜100程度。看護課程や臨床実習では専門英語が求められるため、必要水準より余裕を持った実力を目指すのが安全です。
Q3. 語学力が足りない場合はどうすればいいですか?
A3. 事前の語学学校(例:英語圏やフィリピンなど)で集中的に学ぶ、オンラインで医療英語を並行学習する、入学前ターム(Pathway/Bridging)を活用する、などのルートがあります。
Q4. 学歴や看護師免許はどの程度必要ですか?
A4. 国内の正看護師免許と卒業(看護学士が望ましい)が基本。短大・専門卒の場合でも、国によっては追加の単位補完やブリッジングコースが求められることがあります。
Q5. 必要書類は?翻訳や公証は必須ですか?
A5. 免許証、学位・成績証明、在職証明、パスポート、無犯罪証明、予防接種記録等。多くの国で英訳・公証(認証/Apostille)が必要です。作成に時間がかかるため早めに着手を。
Q6. 資格評価(Credential Evaluation)は何をしますか?
A6. 現地の評価機関(例:CGFNSや各国の看護評議会)が、あなたの学歴・単位・実務を現地基準に照らして審査します。結果に応じて追加入学や実習が指示されることがあります。
Q7. 臨床実習は必須ですか?どのくらいの時間が必要ですか?
A7. 多くの国で必須です。領域別(成人・小児・母性・精神など)に所定時間が定められ、数百時間規模になることもあります。学校や評議会が基準を提示します。
Q8. 試験の種類(NCLEX、OSCEなど)と対策は?
A8. 米・加はNCLEX-RN、英はOSCE(実技)+CBT、豪・NZは各評議会の試験や臨床評価が中心。公式ブループリントの読み込み、模試・Qbank、ケーススタディ演習、臨床英語の強化が定番です。
Q9. 留学費用と生活費の概算は?
A9. 学費は国・学校・期間で大きく変動(例:年間数十万〜数百万円)。生活費は都市部ほど高額。加えて保険、ビザ費用、試験料、翻訳・公証費、受験対策費も見込みます。為替変動のリスクも考慮を。
Q10. 学びながら働けますか?(アルバイト・就労)
A10. 一部の国は学生ビザで週一定時間の就労を認めますが、医療現場での有償業務には制限がある場合があります。就労可否・上限時間・職種の制限は必ず最新のビザ条件を確認してください。
Q11. 年齢制限やブランクは不利ですか?
A11. 明確な年齢上限を設けない国も多いですが、ビザ・就労ポリシーや雇用側の実務要件で影響することがあります。臨床ブランクがある場合は直近の実習・研修で補う計画を。
Q12. 予防接種記録や健康診断は必要?
A12. 臨床実習や就労のためにワクチン接種歴(例:HBV、MMR、Varicella、TBスクリーニング等)提出が求められるのが一般的。入国・ビザの健康要件も併せて確認を。
Q13. 不合格だった場合、再受験はできますか?
A13. 多くの試験は再受験が可能ですが、待機期間や受験回数制限、追加の教育・実習を課す国もあります。学習計画は「合格までの継続性」を前提に設計しましょう。
Q14. 現地で資格取得後の就職活動はどのように進めますか?
A14. ライセンス登録後、病院の新卒/海外看護師向けプログラムや求人サイト、就職フェア、エージェントを活用。履歴書・職務経歴・推薦状・面接(臨床ケース対応)の準備が鍵です。
Q15. 日本への帰国後、海外資格はそのまま使えますか?
A15. 日本国内で看護師として働くには日本の看護師免許が必要です。海外資格は直接の代替にはならないため、厚生労働省等の最新手続きを確認してください。帰国後は語学と国際経験を強みとして評価されやすくなります。
Q16. どの国を選ぶべきか迷っています。決め方のコツは?
A16. 目標(現地就職/帰国前提/研究志向)、必要スコア、費用、実習要件、ビザと移民政策、生活環境(治安・物価・気候)を比較し、3〜5項目の優先順位で絞り込みましょう。
Q17. スケジュール作成の基本は?
A17. 「締切から逆算」が鉄則。入学日→ビザ→合格通知→出願→英語試験→書類準備→学習計画の順でタスク化し、バッファ(1〜2か月)を入れて遅延リスクに備えます。
Q18. 奨学金や教育ローンは利用できますか?
A18. 大学・自治体・民間財団の奨学金、留学生向け授業料減免、国内の教育ローン等の選択肢があります。出願条件(成績・家計・専攻)と返済条件を事前に精査しましょう。
Q19. 家族帯同は可能ですか?
A19. 一部ビザには配偶者・子どもの帯同オプションがありますが、就労可否・就学手続き・医療保険・生活費増など検討項目が多いため、制度と費用を詳細に確認してください。
Q20. よくある失敗と回避策は?
A20. (1)書類・公証の遅延→早期着手とチェックリスト化。(2)英語力不足→スコア達成前提での出願回避、専門英語の先行学習。(3)情報の古さ→公式機関の最新要件で都度確認。(4)費用見積もり甘さ→為替・再受験費・移動費まで含めた予備費を。

 
		 
		 
			 
			 
			 
			 
			