目次
- セブ島で飲食店を開業するには?現地起業のリアルな課題
- ✅ はじめに:南国の楽園で“自分の店”を持つという夢
- ✅ ステップ1:業種制限と“名義人”の壁
- ✅ 結論:飲食業は“法律と人間関係の両面戦略”が求められる
- ✅ ステップ2:フィリピン人パートナーの選定と契約の重要性
- ✅ まとめ:契約と関係性の“地ならし”が事業の寿命を決める
- ✅ ステップ3:営業許可・ライセンス取得の煩雑さ
- ✅ まとめ:許可取得は「段取り力と地元ネットワーク」がすべて
- ✅ ステップ4:人材確保とマネジメントの難しさ
- ✅ まとめ:人材戦略は“コスト”ではなく“リスク対策”
- ✅ ステップ5:仕入れと物流の壁
- ✅ まとめ:飲食の安定運営は“仕入れ設計力”で決まる
- ✅ ステップ6:リアルな日常運営とトラブル対応
- ✅ まとめ:海外飲食経営は“トラブル対応力”が9割
- ✅ ステップ7:フィリピン飲食ビジネスの成功戦略(まとめ)
- ✅ 終わりに:フィリピン飲食ビジネスは「リスク=チャンス」でもある
セブ島で飲食店を開業するには?現地起業のリアルな課題
✅ はじめに:南国の楽園で“自分の店”を持つという夢
「海のそばでカフェを」「海外移住とセットで飲食店を」「フィリピンで成功して日本に逆輸入」
そんな夢を抱いて、セブ島で飲食店を始めたいという日本人は少なくありません。
物価が安く、人件費も抑えられ、なおかつ日本食ブームが起きているフィリピン。観光客・留学生・地元富裕層と、顧客層にも恵まれているように見えるこの地での飲食店経営は、一見すると夢のような話に聞こえます。
しかし、実際に現地で飲食ビジネスを成功させるのは、想像以上にハードルが高いのが現実です。この記事では、セブ島で飲食店を開業するための具体的なプロセスと、リアルな“落とし穴”や課題について包み隠さず解説していきます。
✅ ステップ1:業種制限と“名義人”の壁
セブ島で飲食店を開業するうえで、最初にして最大のハードル――
それが「外国人は一切出資できない」という業種規制の壁です。
◉ 外国人が飲食店を100%出資するには“例外条件”が必要
フィリピンでは、「Retail Trade Liberalization Act」および「Foreign Investments Act」に基づき、**外国人の出資比率が制限される業種一覧(Foreign Investment Negative List)**が存在します。飲食業はこのリストにおいて、「国内市場向けの小規模サービス業」として分類され、**通常は外国人の出資が禁止(0%)**とされています。
しかし実際には、以下の条件を満たせば100%外資法人として飲食業を合法的に運営することも可能です。
✅ 100%外資で飲食業を合法運営するための条件
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初期投資額(資本金)が20万USD以上(約1,100万円以上)
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現地人を50人以上雇用(または、それに類する付加価値がある事業であると認められること)
この条件を満たした場合、飲食業でも外国人が100%出資した法人でビジネスが可能です。ただしこのスキームは、実務的には以下のようなハードルを伴います:
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BIR・DTI・SEC等における事業計画・資本金証明の提出
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雇用要件の継続的な証明
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「内需型ビジネスにおける例外適用」であり、審査が厳しいこと
そのため、中小規模のレストランや個人経営に近い規模では、現実的にはこのスキームの適用が難しく、実務上は名義人(Nominee)を立てるケースが一般的です。
まとめ:原則は0%だが、資本金20万ドル以上で“合法ルート”も存在する
| 条件 | 外国人出資可能? | 備考 |
|---|---|---|
| 資本金5,000ペソ〜10万ペソ | ❌ 出資不可 | フィリピン人100%名義が必須 |
| 資本金20万USD未満 | ❌ 出資不可 | 外資制限により拒否される可能性が高い |
| 資本金20万USD以上 + 雇用条件 | ✅ 出資可能 | 要審査・実務的には中〜大規模事業向け |
◉ 「名義借り(Nominee)」による運営が唯一の実務的手段
こうした法律のもと、実際に多くの外国人起業家が採っている手段が「名義人を立てる形での法人設立」です。
これは、会社の株式や登記上の所有者を信頼できるフィリピン人にして、外国人は実質的経営者として裏方に回るという形。現地では広く行われている方法ですが、当然ながら法律的には非常にグレーです。
実務上の一般的な構図
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会社名義:フィリピン人(または複数人)
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出資:実質的には外国人が全額負担
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経営:外国人が行う
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名義人との契約:MOA(Memorandum of Agreement)などで調整
この構造は、外国人が飲食業を「間接的に」運営するための抜け道のように見えますが、法的に保護されないリスクが常に存在します。
◉ 名義人リスクは“事業消滅”にもつながる
名義人を立てる以上、以下のようなリスクを100%排除することはできません:
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名義人が裏切り、会社や資産を奪う
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喧嘩・不和により、営業が停止する
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契約書が無効とされ、所有権を主張できなくなる
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名義人が死亡・失踪し、登記変更できない
特に「信頼できると思っていた」パートナーが、事業の軌道に乗ったタイミングで態度を変える――というケースは枚挙にいとまがありません。
このような事態を防ぐためには、公証済みの詳細な契約書(MOA)を作成することと、弁護士・税理士・会計士などの第三者を間に挟む体制が不可欠です。
◉ では「合法的に」飲食店を開業する道はないのか?
答えは **「原則ないが、例外的な抜け道もゼロではない」**です。
たとえば:
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PEZA指定の経済特区で、100%輸出向けのフード製造工場を運営 → ✅(PEZA条件下なら可能)
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フィリピン人配偶者の名義で事業 → ⚠ 家族間でもトラブルは起こり得る
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飲食を主業とせず、英語学校内のカフェとして併設 → ⚠ 要件によるが、あくまで教育業が主
それでも、一般的な「レストランを出して自由に経営したい」というニーズには、現実的には名義人を立てる以外に手段がないというのが現在の法制度です。
✅ 結論:飲食業は“法律と人間関係の両面戦略”が求められる
セブ島で飲食業を始めるには、他業種以上に「法律リスクの管理」と「名義人との信頼構築」が問われます。
夢やアイデアを実現するには、その前に:
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自分が本当に飲食ビジネスに適しているのか
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名義人と中長期的な関係を築けるのか
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トラブルに備えた契約と法的保護を構築できるのか
この3点をしっかり見つめる必要があります。
楽園セブでの飲食店開業――それは情熱だけでなく、冷静な現実認識と戦略から始まるのです。
✅ ステップ2:フィリピン人パートナーの選定と契約の重要性
飲食店を開業するうえで、最も重要で、最も慎重に判断すべきポイント――
それが「名義人(フィリピン人パートナー)との関係性と契約」です。
前項で述べたとおり、外国人はフィリピン国内の飲食業を単独で保有・運営することは法律上できません。たとえ資本金をすべて出していたとしても、登記上の所有者には60%以上のフィリピン人を立てる必要があるため、実務上「名義を借りる構造」で運営せざるを得ないのが現実です。
◉ 名義人とのトラブルは「全財産を失うリスク」と直結する
飲食店のように現金が動くビジネスでは、名義人との関係悪化が即、事業の停止・消滅に直結します。よくある事例としては:
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名義人が勝手に銀行口座を凍結
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店舗の鍵や営業許可証を一方的に持ち出す
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名義人が「自分の店」と主張し、外国人を追い出す
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収益配分や経費処理を巡って口論・断絶
こうしたトラブルは「相手の人間性の問題」というより、法的に外国人に発言権がない構造が原因です。つまり、契約と管理体制で最初から防ぐ以外に方法はありません。
◉ パートナー選びは“信頼”より“仕組み”で守る
多くの日本人が失敗するパターンは、「信頼していたのに裏切られた」というもの。しかし、ビジネスにおいては信頼ではなく仕組みと契約でリスクを管理することが鉄則です。
以下のような視点で、パートナー候補を検討しましょう:
| 判断基準 | チェックポイント |
|---|---|
| 倫理観 | お金や権限に執着しすぎていないか? |
| 家族構成 | 配偶者や親族が介入してこないか? |
| 既存の借金 | トラブルを抱えていないか? |
| 法的素養 | 契約書の内容を理解できる知識があるか? |
| 第三者評価 | 過去にトラブル歴がないか?紹介者は信頼できるか? |
◉ 契約書は必須。公証(Notarization)を忘れずに
名義人との合意内容は、必ず書面で契約書として作成し、弁護士による公証を受けることが重要です。おすすめは「MOA(Memorandum of Agreement)」形式での契約です。
契約書に盛り込むべき内容:
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出資者(外国人)の明確な役割と権限
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収益配分・会計処理のルール
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営業停止・撤退時の店舗資産の扱い
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名義人の介入を制限する条項
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月次・年次での報告義務と連絡体制
この契約書がなければ、トラブル時に裁判に持ち込むこともできず、すべての法的支配権を名義人が握ることになります。
◉ 弁護士選びもパートナー選びと同じくらい重要
契約書作成を依頼する弁護士の選定も、成功の鍵を握ります。
フィリピンでは、外国人をターゲットにした「悪徳弁護士」も少なくなく、名義人と裏で結託するようなケースも存在します。そのため、弁護士は知人・現地企業・信頼できる日本人起業家からの紹介が必須です。
初回の相談で必ず確認すべきこと:
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外国人との契約案件の実績
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費用体系の明確さ(着手金・成果報酬)
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契約書納品までのスケジュールと対応範囲
✅ まとめ:契約と関係性の“地ならし”が事業の寿命を決める
セブ島で飲食店を持ちたい――その夢を叶えるには、現地パートナーとの関係性こそが最大のリスクであり最大の資産です。
「人を信じすぎず、仕組みで守る」
この発想を持てるかどうかが、現地ビジネスの成否を分ける決定的な分岐点になります。
✅ ステップ3:営業許可・ライセンス取得の煩雑さ
セブ島で飲食店を開業する際、法人を設立しただけではまだ営業はできません。
実際にお客様に料理やドリンクを提供するには、市役所や各種政府機関から「営業に必要な許可・ライセンス」を取得する必要があります。
このプロセスが、実は多くの外国人がつまずくポイントです。ここでは、飲食店に必要な各種許可について、ひとつひとつの意味と取得手順・注意点を詳しく解説していきます。
◉ ① Mayor’s Permit(営業許可証)
営業の基本となる最重要ライセンスです。これがなければ、飲食業は違法営業と見なされ、営業停止・罰金の対象になります。
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発行元:事業所在地のCity Hall(市役所)
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提出書類(一例):
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SEC登録証明書(法人の場合)
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BIR登録証明書(TIN取得済み)
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賃貸契約書(Lease of Contract)
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屋号申請書(Business Name Registration)
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オーナーのIDと写真
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Fire Safety、Sanitary Permit(後述)
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手数料:2,000〜10,000ペソ程度(規模により変動)
注意点:
市役所の担当部署によって対応が異なり、事前アポや書類内容の細部に口頭での確認が必要なことも多いです。可能であれば、市役所経験のあるエージェントやローカル行政書士的存在と同行するのが安心です。
◉ ② Sanitary Permit(衛生許可証)
飲食店として営業する場合、厨房の清潔さ・衛生管理の基準を満たしていることが求められます。この許可は、**市の衛生局(City Health Office)**によって発行されます。
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必要条件:
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店舗の衛生チェック(現地視察あり)
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食品保管・ゴミ処理・換気・水回りの状況チェック
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スタッフの健康診断証明(Health Certificate)
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手数料:1,000〜2,000ペソ程度
注意点:
視察時にはキッチン・トイレ・排水周り・冷蔵庫の衛生状態まで細かくチェックされるため、準備不足だと再訪問→再費用になることも。現地施工業者にも**「Sanitary compliance」を前提にした内装工事設計**を依頼すべきです。
◉ ③ Fire Safety Inspection Certificate(消防安全証)
飲食店は火を扱う施設として、消防署からの安全認証が必要です。これは、火災リスクへの対策が講じられているかどうかを確認するもので、年1回の更新制です。
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管轄:Bureau of Fire Protection(BFP)
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チェック項目:
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消火器の設置(有効期限内であること)
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非常口・避難経路の確保
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電気設備の適切な配線
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LPG(ガス)の安全設置
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手数料:2,000〜5,000ペソ前後(店舗面積による)
注意点:
「消防署の立ち入り検査」は抜き打ちで来ることもあるため、日常から安全管理が必要です。設計段階で消防署規格をクリアする内装計画を練ることがスムーズな許可取得につながります。
◉ ④ BIR Registration(税務署登録)
営業を始めるには、フィリピンの国税庁である**BIR(Bureau of Internal Revenue)**に事業者登録を行い、**公式領収書の印刷許可(ATP:Authority to Print)**を得る必要があります。
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必須項目:
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TIN(Taxpayer Identification Number)の取得
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領収書(Official Receipt)の印刷許可申請
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会計帳簿(Journal, Ledger)の登録
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VAT登録(必要に応じて)
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所要時間:数日〜1週間
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提出先:事業所在地を管轄するBIR支所
注意点:
BIR登録がなければ、「領収書を発行できない=合法的な売上が立てられない」ことになります。また、領収書印刷業者もBIR認可業者でなければ無効です。最初から「BIR対応に詳しい会計士・税理士」に相談しておくと安心です。
◉ ⑤ Food Handler’s Certificate(食品衛生講習受講証)
調理・接客スタッフ全員に義務付けられている食品衛生管理講習の修了証です。市の保健局が行う講習に参加し、テストに合格することで取得できます。
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対象:厨房スタッフ・ホールスタッフ含め全員
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所要時間:半日〜1日(講習+簡単なテスト)
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有効期限:1年間
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手数料:200〜500ペソ程度
注意点:
取得が遅れると、Sanitary Permitが発行されません。スタッフの採用が決まった時点で、すぐに講習スケジュールを確認しておくことが重要です。
◉ ⑥ Signage Permit(看板設置許可)
外看板や壁面サインを出す場合は、**市の建築局(Office of the Building Official)**の許可が必要です。意外と忘れられがちですが、無許可の看板は罰金や撤去命令の対象となります。
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必要書類:
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看板のデザイン図
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設置予定の位置図
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賃貸契約者からの承諾書(必要な場合)
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手数料:500〜1,500ペソ前後
✅ まとめ:許可取得は「段取り力と地元ネットワーク」がすべて
これらの許可・ライセンスは、単独で取得できないものではありません。しかし、書類の不備、対応官庁のたらい回し、担当者による曖昧な指示など、現地特有の“摩耗”が大きく、ストレスになりがちです。
成功のポイント:
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各許可の取得フローを時系列でマッピングする
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必要な業者(内装・消防・BIR登録業者)を事前に確保
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行政とのやり取りに強いエージェントやローカルスタッフを頼る
セブ島でスムーズに飲食店をスタートさせるには、「厨房設備」よりも「行政手続き」の方がよほど先に整えるべき課題なのです。
✅ ステップ4:人材確保とマネジメントの難しさ
セブ島で飲食店を経営する上で、もうひとつ避けては通れない大きな課題――
それが「人材確保と現地スタッフのマネジメント」です。
フィリピンは人件費が安く、最低賃金は日本円換算で1日1,000円以下というケースも多く、外国人経営者にとっては「人材コストが抑えられる国」として魅力的に映ります。
しかし現実には、**スタッフの確保と管理はコスト以上に“難易度が高い”**のです。
◉ スタッフの定着率が極端に低い
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面接時に「Yes, Sir!」と元気に答えていたスタッフが1週間で来なくなる
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無断欠勤の連絡が翌日SNSで送られてくる
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数日ごとに職場を転々とする「短期就労志向」
このような光景は珍しくありません。責任感や安定志向の薄さがフィリピン労働市場の特徴のひとつです。
◉ 宗教・文化的背景の違いは“価値観のズレ”を生む
特に外国人が驚かされるのが、お金に対する感覚の違いです。
カトリック的価値観・ファミリー重視の文化・貧困経験などが複雑に絡み合い、以下のような傾向が見られます:
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「今頑張っているから、少しレジのお金を先に使っても構わない」という感覚
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「家族の病気」「お葬式」「祝日」などの“緊急休暇”が頻発しがち
特に飲食店の場合、「現金を日々扱う業態」であるため、金銭管理をスタッフに任せるリスクは非常に大きくなります。
◉ 優秀な人材ほど“対価意識”が強い
もうひとつの現実が、**“できる人材ほど自分の価値を強く主張してくる”**という点です。
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「私は他店でも経験がある。だからもっと給料を上げてくれ」
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「この店は私が支えてるんだから、オーナーより私がもらっても当然」
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「月に数回、家族の事情で休むけど、これは当然の権利だよね?」
こうした要求に対して明確な評価基準や給与体系がなければ、感情ベースでの交渉・対立に発展しやすく、店舗運営に深刻な影響を及ぼすこともあります。
◉ マネージャー選定の壁:“任せる”人がいない
外国人オーナーが現場に常駐できない場合、日々の店舗運営を管理できるマネージャーの存在が不可欠です。
しかし実際には、以下のような壁があります:
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責任感と金銭管理能力の両方を持つ人材が少ない
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家族や友人を店に呼び出し、優遇するなどの“ローカルルール”が発生する
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売上をごまかす/スタッフの不満を隠す/オーナーに都合の良い報告しかしない
このような状況の中で、本当に任せられるマネージャーを見つけるのは至難の業です。
信頼できるマネージャーを育てるには、半年〜1年単位の育成と観察が必要なケースも多く、短期的に“任せられる人材”が確保できるとは限りません。
✅ まとめ:人材戦略は“コスト”ではなく“リスク対策”
セブ島での飲食店経営において、「人件費が安い」というのはあくまで表面的な魅力であり、実際には人材の“管理コスト”や“信頼コスト”が非常に高いことを理解しておく必要があります。
成功する経営者は、以下のような対策を講じています:
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会計とレジを絶対にマネージャー一人に任せない(分散管理)
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シフトや売上はクラウド管理/遠隔モニタリングを導入
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給与・昇給・ボーナスに関する明文化された評価制度を導入
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トレーニングとフィードバックを定期的・ルール化して行う
“任せたいけど任せられない”――このジレンマを乗り越えるためには、「信頼できる人」を探すよりも、「信頼に依存しない仕組み」を先に作ることが重要なのです。
✅ ステップ5:仕入れと物流の壁
飲食店経営において、店舗づくりや人材管理と並んで**“見落とされがちだが非常に重要”**なのが、仕入れと物流体制の確保です。
セブ島という“島国特有の事情”に加え、フィリピン経済の構造・為替リスク・物流インフラの課題が複雑に絡み合い、安定的かつコストを抑えた食材調達は容易ではありません。
◉ 輸入品の高騰と為替リスク:ドル高の直撃を受けやすい構造
日本食レストランやクオリティ重視の飲食店では、どうしても調味料・冷凍食品・機材などを日本から輸入せざるを得ない場面が出てきます。
ここで大きなネックになるのが:
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為替レートの急変(特にドル高)
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輸入通関費用の上昇(Bureau of Customsの査定強化)
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燃料高騰による国際輸送費の増加
たとえば2024年以降のドル高局面では、日本からの輸入コストが1.5倍以上に跳ね上がったケースも珍しくありません。特に「毎月コンテナ単位ではなく小ロット輸入をしている飲食店」はコスト直撃を受けがちです。
◉ 国内流通の不安定さと品質のバラつき
現地調達で対応しようとしても、ローカル市場には以下の課題があります:
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品質のバラつきが激しい(同じ野菜でもロットごとに色・大きさが不安定)
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物流インフラが未整備(時間どおりに届かない、冷蔵トラックがない)
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食材の在庫が切れやすい(天候や交通状況に影響されやすい)
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特定の食材に依存すると、入荷なし=営業停止のリスク
たとえば、日本で当たり前に手に入る「長ネギ」や「絹ごし豆腐」ひとつを取っても、ローカル業者に依存すると“今日はない”が頻発します。
◉ 「地元スーパー仕入れ」で済ませると利益が出ない
特に開業当初は、「とりあえずスーパーで買って回せばいい」と考えがちですが、これは長期的にはコスト構造的に破綻します。
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小売価格での仕入れはコストが高すぎる
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大量発注・業務用対応に非対応の業者も多い
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賞味期限・衛生面の管理にばらつきがある
結果的に、粗利を圧迫し、価格転嫁も難しい状況に陥ることがあります。
◉ 安定した仕入れ体制を整えるには?
成功している店舗は、以下のような仕組みを構築しています:
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特定の業者と月契約による定期納品の交渉
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ローカル市場と輸入食材のハイブリッド調達
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一部食材は冷凍・加工してストック管理
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店舗側での簡易冷蔵庫・冷凍庫の拡充による在庫保管力の強化
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代替食材リストの整備(想定食材が欠品時のメニュー変更対応)
また、「この材料がなければ営業できない」状態を作らないことも重要です。代替可能なレシピ・提供スタイルを組み込んでおくことで、万が一の欠品時にも柔軟に対応できます。
◉ リアルな課題:物流は“予定どおり動かない前提”で考える
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食材が港で足止めされる(書類不備・税関の気まぐれ)
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大雨やストライキでトラックが止まる
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フィリピン国内の休日が多く、配送スケジュールに影響
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道路状況が悪く、車両が故障・遅延
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ドライバーが急に来ない(人材リスクが物流にも)
こうした事象は「たまたま起きること」ではなく、日常的に起こることと考えるべきです。そのため、仕入れは“余裕をもって、複数ルートを前提に”設計するのがフィリピン式の現実対応です。
✅ まとめ:飲食の安定運営は“仕入れ設計力”で決まる
セブ島で飲食店を成功させるには、料理の味や店の雰囲気だけでは不十分です。
実際には「どうやって、安定して、適正コストで材料を調達できるか?」が売上以上に経営の安定性を左右します。
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輸入 vs ローカル調達のバランス
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為替・輸送費のリスクヘッジ
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欠品時の対応力
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業者との関係性構築
これらすべてを戦略として組み込めるかどうかが、セブ島での飲食ビジネス成功のカギなのです。
✅ ステップ6:リアルな日常運営とトラブル対応
セブ島で飲食店を開業して数ヶ月――。
お店の内装も完成し、スタッフも採用し、営業許可も揃った。
いよいよ「夢の海外飲食ビジネス」のスタート!と思った矢先、多くの外国人オーナーが直面するのが、「日常運営に潜む予想外のトラブル」です。
◉ フィリピンでは“想定外”が“日常”
日本と同じ感覚で運営しようとすると、以下のような出来事にストレスを感じるでしょう:
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大雨で突然の断水や停電 → 営業中止
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スタッフが遅刻・無断欠勤 → シフトが崩壊
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清掃業者・ガス配送が予定通りに来ない → 店が回らない
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役所から突然の“再検査” → 書類提出を求められる
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店の前で道路工事 → 数日間の客足激減
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税務署・消防署の職員が予告なしに来訪 → 書類の不備を指摘される
これらは“たまにあること”ではなく、「あるある」です。
◉ 現金管理・金庫トラブルは絶対に軽視できない
日常運営で最も深刻なトラブルに発展しやすいのが、「金銭に関する問題」です。
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レジ金の不足
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売上金の私的流用
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領収書や帳簿の改ざん
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マネージャーが“経費”という名目で現金を抜く
このようなトラブルは、発覚した時点ではすでに手遅れであるケースがほとんど。
金銭管理は「信用」ではなく、仕組みと仕分け・記録で管理するしかありません。
◉ 日本では考えられない“文化的トラブル”も起こる
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店内でスタッフが誕生日を祝ってケーキを出す(お客様そっちのけ)
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友達を“まかないだけ食べさせて”と勝手に裏口から入れる
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顧客に対しても**「今日は機嫌が悪い」と接客態度が変わる**
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イベント時にスタッフが全員一斉に休み希望を出す(例:クリスマス、セマナサンタ)
こうした事態に「日本の常識で対応」すると、スタッフはすぐ辞めてしまいます。
“叱る”より“教育・再設計”という視点で捉える柔軟さが必要です。
◉ トラブル対応で身につけたい“3つの武器”
① 予備のルート/プランBを常に持つ
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ガス会社が来ない → 予備業者に即連絡できる体制
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スタッフの穴埋め → 他店舗スタッフ or オーナー自ら対応
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停電 → 簡易ジェネレーター+営業中止の判断基準
② 現金・売上は“毎日記録+即送金”
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マネージャー1人に現金を任せない
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オンライン記録+2名以上の管理体制
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売上金は日次で銀行に送金(残さない)
③ “一人で解決しない”ネットワーク構築
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他店オーナーとの情報交換(同業者ほど助け合える)
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弁護士・税理士・行政書士などの連絡先を常備
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怪しい勧誘・役所の圧力には即「専門家に確認します」と伝える
✅ まとめ:海外飲食経営は“トラブル対応力”が9割
セブ島での飲食店経営は、日本と比べて確かに自由度も高く、可能性も大きい。
しかし、日常運営の中には「思ってもいなかった落とし穴」が無数にあり、それをいかに冷静に、柔軟に、地道に対応できるかが成功の鍵となります。
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日本の基準を押しつけない
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問題は事前に予測し、手を打つ
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経営者自身が**“現場感覚”を持ち続ける**
これが、セブ島で長く続く飲食店になるための条件です。
✅ ステップ7:フィリピン飲食ビジネスの成功戦略(まとめ)
ここまで紹介してきた通り、フィリピン・セブ島で飲食店を開業し、継続的に運営していくには、日本とはまったく異なる課題と文化の中で“戦略的”に動くことが求められます。
「夢を現実にする」ために必要なのは、熱意や情熱だけではありません。制度・人材・物流・文化の違いを理解し、地道な工夫を積み重ねる“準備力と対応力”こそが成功のカギなのです。
ここでは、これまでの内容をふまえたうえで、フィリピンで飲食ビジネスを成功させるための“7つの戦略的視点”をまとめておきます。
✅ ① 法制度を理解し、グレー運用には常に“保険”を持つ
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飲食業は外資規制が厳しく、基本は外国人出資0%
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名義人構造を取る場合は、契約書・公証・弁護士の関与が必須
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定期的に法制度が変わるため、現地専門家とのネットワーク維持が重要
✅ ② ビザ・在留資格を“事業と連動して”考える
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法人設立=即ビザではない
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**9G(就労)、13A(配偶者)、SRRV(退職者)**のいずれかを戦略的に選ぶ
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法人登記とビザ取得を同時進行で設計するのが理想的
✅ ③ パートナー・マネージャーは“信頼”より“契約”と“仕組み”で守る
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名義人・マネージャーのリスクは人的トラブルに直結
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誰を選ぶかより、どう管理するかが重要
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“裏切られない関係”ではなく、“裏切れない構造”を作る
✅ ④ ライセンス・許認可は「段取り8割・現地エージェント活用」
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Mayor’s Permit / Sanitary / Fire Safety / BIR登録などは並行取得が困難
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内装工事と連動して申請を進める必要あり
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ローカル行政とのやりとりに強いフィリピン人の協力者が鍵
✅ ⑤ 人材マネジメントは“日本式”を捨て、現地文化に適応する
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遅刻・無断欠勤・急な休暇は「ある前提」で設計
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「怒らず、教育する」文化づくりが持続の鍵
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マネージャーは慎重に育成、現金は任せずシステムで管理
✅ ⑥ 食材調達・物流は“2段階の安全装置”を設計する
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輸入×ローカルのハイブリッド仕入れ体制
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冷蔵・冷凍設備でストック力を持たせる
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欠品時の代替メニュー/食材リストの整備が重要
✅ ⑦ トラブル対応こそが“海外経営者の本当の仕事”
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予期せぬ停電・遅配・行政対応を“想定内”に
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怒らず慌てず、「次どう動くか」を先に決めておく
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オーナー自身の“現場力”が問われる場面が必ず来る
✅ 終わりに:フィリピン飲食ビジネスは「リスク=チャンス」でもある
日本では高コスト・高競争で参入が難しい飲食業界でも、フィリピンでは適切な準備と工夫があれば、少ない資本で大きな成果を得ることが可能です。
たしかに、制度は不安定で、文化も違い、トラブルも多い。
しかしそれは、「大資本が一気に参入しにくい市場」でもあるということ。
個人で勝負できる環境が、まだ残っている。
これこそが、フィリピンで飲食店をやる最大の“ブルーオーシャン”です。
海外で飲食業をやりたい。人生を変えたい。そんな想いを持っているなら、
**セブ島はきっと、それに応えてくれる“可能性のある国”**です。
