2025/06/4

起業・ビジネス

フィリピン会社の福利厚生:SSS, Philhealth, Pag-Ibigについての基礎知識

2025/06/5
この記事は約 9 分で読めます

目次

フィリピンの法定福利厚生(SSS、PhilHealth、Pag-IBIG Fund)について徹底解説

はじめに:なぜ今、フィリピンの福利厚生制度を理解すべきなのか?

近年、フィリピンにおけるビジネス展開や現地雇用への関心が高まる中で、「フィリピンの労働制度や福利厚生」への理解は、企業にとっても個人にとっても避けて通れない重要なテーマとなっています。特に、現地で従業員を雇用する場合、あるいは現地企業に就職する場合に義務となる「法定福利厚生制度(Statutory Benefits)」の内容を正しく把握していないと、思わぬトラブルや法的リスクを招く可能性があります。

フィリピンでは、政府が主導する3つの主要な福利厚生制度が存在します。それが、SSS(Social Security System/社会保障制度)PhilHealth(国民健康保険)、そして**Pag-IBIG Fund(住宅開発支援ファンド)**です。これらは日本の年金・健康保険・雇用保険などに相当する制度ですが、フィリピン特有の運用ルールやメリット・デメリットもあります。

多くの日本人にとっては聞き慣れないこれらの制度ですが、現地で事業を立ち上げる起業家、フィリピンの企業で働く就労者、さらには現地で人材を雇用したい経営者にとっては、「知らなかった」では済まされない法的義務と実務対応が求められます。逆に言えば、これらの制度をうまく活用することで、従業員満足度を向上させ、会社の信頼性を高めることも可能です。

本記事では、これら3つの制度について、それぞれの目的や仕組み、加入義務、給付内容、保険料率、企業側の対応方法などを徹底的に解説していきます。特に以下のような方にとって、本記事は実務の指針となる内容を目指しています:

  • フィリピンで会社を設立または経営している方

  • フィリピンの現地企業に就職する予定のある方

  • 外国人雇用者として、現地の労働制度を把握しておきたい方

  • フィリピンでの給与計算・人事制度の整備に携わっている方

制度の概要から、給与明細にどう反映されるのか、どのように納付するのか、従業員にどんな恩恵があるのかまで、わかりやすく丁寧に解説していきます。日本とは似ているようで異なる、フィリピンの社会保険制度の全貌を、この1本で把握できる構成にしています。

それでは、まずは最も基本的な制度である「SSS(社会保障制度)」から見ていきましょう。


第1章:SSS(Social Security System)とは何か?

1-1. SSSの概要と目的

SSSとは「Social Security System」の略で、日本語では「社会保障制度」と訳されます。これは、民間部門で働くすべての労働者や自営業者を対象とした国家主導の社会保険制度で、失業、老齢、障害、疾病、出産、死亡といったリスクに備えるための給付を提供するものです。

日本でいえば「厚生年金保険」と「失業保険(雇用保険)」を合わせたような役割を持ちます。SSSは1930年代のアメリカ社会保障制度に影響を受けて制定され、1957年に設立されました。民間部門の労働者を対象としたこの制度は、社会的なセーフティネットとしての役割を長年にわたり果たしています。

1-2. 加入義務と対象者

フィリピンで雇用されている**すべての民間企業の従業員(年齢:60歳未満)**は、SSSへの加入が法律で義務付けられています。また、以下のような人々も対象となります:

  • 自営業者(Self-employed)

  • 家事労働者(Domestic workers, 通称“kasambahay”)

  • OFW(Overseas Filipino Workers/海外出稼ぎ労働者)

  • ボランティアメンバー(Voluntary member)

一方、公務員についてはGSIS(Government Service Insurance System)という別の制度に加入することになります。

雇用主は、従業員を雇用した時点から30日以内にSSSに登録し、ID番号を取得させる義務があります。

1-3. 保険料と拠出の仕組み(2025年基準)

SSSの拠出額は、毎月の**月給に対して14%(2025年時点)**の割合で計算されます。この14%は、以下のように雇用主と従業員の間で分担されます:

拠出者 割合 説明
雇用主 9.5% 雇用主が負担
従業員 4.5% 給与から天引きされる

例えば、月給がPHP 30,000の従業員であれば、合計でPHP 4,200がSSSに納付され、そのうちPHP 2,850を会社が、PHP 1,350を本人が負担する形となります。

なお、上限月給(2025年現在PHP 30,000)を超える場合は、それ以上の金額には拠出義務は発生しません。

1-4. SSSの給付内容(Benefits)

SSSに加入することにより、以下のような各種給付を受けることができます:

■ 退職年金(Retirement Benefit)

  • 60歳以上(早期)または65歳以上で完全退職した場合に受給可能。

  • 納付月数に応じて定額または年金形式で支給。

  • 最低120か月(10年)以上の拠出が必要。

■ 障害給付(Disability Benefit)

  • 重度または部分的な障害を負った場合に支給。

  • 永続的な失明、手足の欠損などが対象。

■ 出産手当(Maternity Benefit)

  • 妊娠・出産にともなう所得補填。

  • 女性従業員が対象。出産ごとに適用されるが、支給には条件あり。

■ 病気手当(Sickness Benefit)

  • 怪我や病気で連続4日以上欠勤した場合に支給。

  • 最大120日間の補償が可能。

■ 死亡給付(Death Benefit)/遺族年金

  • 被保険者が亡くなった場合、遺族に対して支給。

  • 年金形式または一時金形式(納付期間により変動)。

■ 失業給付(Unemployment Benefit)

  • 近年追加された制度。会社都合での解雇が条件。

  • 最大2か月分の支給が受けられる。

1-5. 実務面での注意点(企業・従業員双方)

雇用主が行うべきこと:

  • 従業員のSSS番号の取得支援

  • 毎月の拠出額計算と納付

  • SSSウェブポータルへの報告(R3報告など)

従業員が確認すべきこと:

  • 自分のSSS番号と登録情報

  • 給与明細に記載された控除金額

  • ウェブ上のマイページ(My.SSS)で拠出履歴を確認可能


1-6. 近年の動向とトピック(2024〜2025)

  • 2023年以降、保険料率が段階的に引き上げられ、2025年時点で14%に到達。

  • SSSのオンライン申請・納付システムが強化され、電子証明やQRコード支払いも導入。

  • 雇用主の未納・虚偽報告に対する罰則が厳格化(最大罰金+刑事責任)


1-7. 日本との比較:日本の厚生年金との違い

項目 フィリピン(SSS) 日本(厚生年金)
対象 民間従業員中心 原則全就労者
年金開始年齢 60歳(または65歳) 原則65歳
保険料率 14%(給与上限あり) 約18.3%(上限高め)
自営業者の加入 任意(ボランティア) 原則国民年金

まとめ(この章の要点)

  • SSSは、フィリピンにおける民間従業員の社会保障制度。

  • 加入と拠出は法律で義務化されており、企業には申請・納付の責任がある。

  • 給付内容は多岐にわたり、退職後の生活・出産・疾病・死亡に備えられる。

  • 制度変更が続いているため、常に最新情報を確認することが重要。

第2章:PhilHealth(フィルヘルス)とは何か?

2-1. PhilHealthの概要と目的

PhilHealth(フィルヘルス)とは、Philippine Health Insurance Corporation(フィリピン健康保険公社)が運営する国家主導の健康保険制度です。SSSが「年金・保障」を担うのに対し、PhilHealthは医療費の補助と健康保障を提供する制度で、日本の「健康保険制度」に相当します。

1995年に「National Health Insurance Act(国民健康保険法)」に基づいて設立されたPhilHealthは、全国民に対して基本的な医療サービスを提供することを目的としています。特に医療費の高騰や公共病院の混雑が深刻なフィリピンでは、PhilHealthの加入と活用が健康リスクへの対策として非常に重要です。


2-2. 加入対象者と分類

PhilHealthの被保険者(メンバー)は、以下のように分類されます:

メンバー区分 説明
Formal Sector 会社員・政府職員など給与所得者。雇用主が拠出。
Informal Sector 自営業、フリーランスなど。自主拠出。
Sponsored Members 貧困層(政府・地方自治体が保険料を負担)
Lifetime Members 60歳以上で保険料納付要件を満たした退職者
Senior Citizens 60歳以上で未加入だった高齢者(RA 10645により自動加入)
OFWs 海外フィリピン人労働者(12か月ごとの更新制)

雇用されている場合は、雇用主が加入手続きと保険料拠出を行う義務があります。自営業やフリーランスの場合は、自分でオンラインまたはオフィスで登録・支払いを行います。


2-3. 保険料と拠出の仕組み(2025年時点)

PhilHealthの保険料は、**年収または月給に応じた「定率課税」**です。2025年時点では以下のようなルールが適用されています。

年度 保険料率 上限・下限給与 雇用主と従業員の負担割合
2025年 5.0%(予定) 月給PHP 10,000〜100,000 雇用主50%、従業員50%

例:月給がPHP 30,000の場合、

  • 保険料は 30,000 × 5% = PHP 1,500

  • 雇用主と従業員が 各750ペソずつ拠出します。

なお、自営業者やOFWは、全額を自己負担で支払う必要があります。


2-4. PhilHealthがカバーする医療サービス

PhilHealthに加入することで、以下のような医療費の一部または全部が補助されます:

■ 入院費用の補助(Inpatient Coverage)

  • 公立病院、認定私立病院での入院費を一部または全額カバー。

  • 病名に応じて「ケースレート制度(定額補助)」が適用。

  • 医師費用・薬代・検査費・手術費などが対象。

■ 外来診療・予防医療(Primary Care)

  • 認定クリニックでの健康診断、ワクチン、簡易検査など。

  • 特定の慢性疾患(高血圧・糖尿病など)の管理も対象。

■ 特定疾患の治療費補助

  • がん、透析、結核、精神疾患など重篤な疾患に対する高額補助制度あり。

  • Z Benefit Package:高額で専門的な治療に特化した補助パッケージ。

■ COVID-19関連カバー(期間限定)

  • 検査・隔離・治療費用に対して特別補助を実施(※随時終了)


2-5. 実務上の注意点(企業・従業員)

雇用主の義務:

  • 雇用契約締結後、PhilHealth IDの登録と取得支援。

  • 毎月の保険料計算と納付(オンラインまたは銀行経由)。

  • 月次報告書(RF-1など)の提出。

従業員が確認すべき点:

  • 自分のPhilHealth ID番号(12桁)

  • 保険料納付記録(MyPhilHealthポータルで確認可能)

  • 病院利用時にPhilHealth番号を提示し、補助申請が必要。


2-6. 医療現場での利用方法

実際に病院でPhilHealthを利用するには、以下の手順を踏む必要があります:

  1. PhilHealth認定医療機関を選ぶ(Privateでも可能)

  2. 病院受付でPhilHealth IDまたは番号を提示

  3. 診断に応じたケースレート補助が自動的に適用

  4. 差額分があれば自費で支払う

  5. 医療機関がPhilHealthに対して申請を行う


2-7. よくある質問(FAQ)

質問 回答
海外にいるときも使える? 原則フィリピン国内の認定医療機関のみ対応
退職後はどうなる? 一定の拠出年数を満たせば「Lifetime Member」として無料加入
保険証はあるの? プラスチックカードは廃止され、番号管理へ移行中
会社が納付してないとどうなる? 過去の未納分に遡って支払いを求められる可能性あり。企業側に法的責任

2-8. 日本の健康保険との違い

項目 フィリピン(PhilHealth) 日本(健康保険)
補助形式 定額給付(ケースレート) 割合(原則70%カバー)
自営業者の扱い 自主加入/自己負担100% 国保に自動加入
給付対象 特定の病名ごとに固定給付 診療全般
医療水準 公立と私立で差あり 全国ほぼ均一

この章のまとめ

  • PhilHealthは、フィリピン国民および居住外国人を対象とした医療費補助制度であり、雇用主と従業員が折半で保険料を支払う。

  • 給付はケースレート(病名ごとの定額)で行われ、公立病院では全額補助される場合もある。

  • 加入・納付・申請方法は明確に制度化されており、雇用者は法律に基づいて対応が必要。

  • 日本と比較して補助範囲や金額が限定されているため、民間医療保険との併用を検討する価値がある。


第3章:Pag-IBIG Fund(パグイビッグ・ファンド)とは何か?

3-1. Pag-IBIGの名称と背景

Pag-IBIG Fund(正式名称:Home Development Mutual Fund/HDMF)は、フィリピン政府が運営する住宅開発と労働者福祉を目的とした積立制度です。「Pag-IBIG」は「Pagtutulungan sa Kinabukasan: Ikaw, Bangko, Industriya at Gobyerno」の略語で、「あなた(Ikaw)、銀行、産業、政府が協力し合って未来を築く」という意味を持ちます。

1978年に設立され、当初は主に住宅ローン支援を目的としていましたが、現在では短期ローンや貯蓄制度としても活用されており、社会的な福祉ファンドとしての位置づけを強めています。


3-2. 加入対象と義務

Pag-IBIG Fundは、以下のようなフィリピン国内の就労者および特定の外国人労働者を対象とした法定加入制度です。

対象者 加入義務
フィリピン国内の民間従業員 必須(雇用主が登録・拠出)
公務員 必須
自営業者・フリーランサー 任意加入(自主拠出)
OFWs(海外フィリピン人労働者) 任意加入(推奨)
外国人労働者(一定条件下) 法的拘束力あり(要件確認)

雇用主は、従業員を雇用した日から30日以内にPag-IBIGへの登録と番号取得(MID番号)を行い、毎月の拠出義務を負います。


3-3. 保険料(積立金)と拠出の仕組み(2025年基準)

Pag-IBIGの拠出額は、雇用主と従業員が月給の2%ずつを支払うことで成り立ちます。

寄付者 拠出率 備考
従業員 2% 給与から天引き
雇用主 2% 法定義務

例:月給PHP 20,000の場合、

  • 従業員:PHP 400

  • 雇用主:PHP 400

  • 合計:PHP 800が毎月Pag-IBIGに積み立てられます。

なお、希望者は「MP2貯蓄制度(後述)」により、これを超える金額を任意で積み立てることも可能です。


3-4. Pag-IBIGで利用できる主な制度・サービス

Pag-IBIG Fundでは、以下の3つの柱となるサービスが提供されています。

① 住宅ローン(Housing Loan)

Pag-IBIG最大のメリットは、低金利の住宅ローンです。

  • 最長30年の分割返済が可能

  • 年利3%〜7%程度(借入額と期間による)

  • 最大借入額はPHP 6,000,000(約1,500万円相当)

  • 新築・中古住宅購入、土地取得、住宅建設・改修などが対象

申請には最低24か月の拠出履歴が必要で、安定した収入証明が求められます。

② マルチパーパスローン(Multi-Purpose Loan)

緊急時や教育費、医療費など多目的に使用できる短期ローン制度

  • 拠出履歴が24か月以上あれば利用可能

  • 借入額は拠出額の60%〜80%程度まで

  • 3年以内の返済義務あり

  • オンライン申請可(Virtual Pag-IBIG経由)

③ MP2セービングス(Modified Pag-IBIG II)

Pag-IBIGメンバー向けの自発的貯蓄制度で、預金に近い運用が可能です。

  • 年利6%以上(※市場変動あり)

  • 最低拠出額:月500ペソ~

  • 5年間の運用後に全額引き出し可能

  • 教育資金、老後資金に人気

MP2は任意制度ですが、利回りが高いため多くの労働者や公務員が活用しています。


3-5. 加入・拠出・申請の流れ(企業と従業員の立場から)

雇用主の対応:

  1. 従業員採用後、Pag-IBIG MID番号を取得

  2. 毎月の給与控除分と会社負担分を算出

  3. 毎月10日までに納付(銀行またはオンライン)

  4. 雇用報告書(MCRF)の提出

従業員の確認事項:

  • 給与明細にPag-IBIG拠出が含まれているか

  • 自身のMID番号と拠出履歴

  • Virtual Pag-IBIGポータルでローン申請・MP2登録可


3-6. よくある質問(FAQ)

質問 回答
外国人でも加入できる? 労働許可があり法定雇用契約下なら加入義務あり
拠出をやめたらどうなる? 拠出停止後も資金は5年後に引き出し可能(利息あり)
MP2はどこで申請できる? オンライン(Virtual Pag-IBIG)または支部で
ローン申請の際の注意点は? 信用履歴と拠出実績が問われるため、計画的な積立が必要

3-7. 日本との比較

項目 フィリピン(Pag-IBIG) 日本(住宅金融支援機構など)
制度の位置付け 国家主導の福利基金 公的住宅ローン制度は任意利用
積立制度 雇用者強制+任意拠出 住宅目的の積立制度はない
利用目的 住宅購入、ローン、緊急資金、貯蓄 主に民間金融機関に依存

この章のまとめ

  • Pag-IBIGは、住宅取得支援と短期ローン、貯蓄制度を組み合わせた多機能な福祉ファンドであり、SSSやPhilHealthと同様に法定制度として位置づけられている。

  • 雇用主・従業員ともに毎月2%ずつを拠出する義務があり、給与明細に明記される。

  • ローンや貯蓄制度を通じて、実生活での恩恵が大きく、制度の正しい理解と活用が求められる。

  • 近年はオンライン申請システム(Virtual Pag-IBIG)が普及し、利便性が大幅に向上している。


第4章:フィリピンの法定福利厚生まとめと実務チェックリスト

4-1. 三大制度の全体像をおさらい

フィリピンで雇用契約を結ぶ場合、以下の三大法定福利厚生制度への加入と拠出が法律で義務付けられています。日本人の経営者や外国人就労者にとっても、その仕組みと役割を正しく理解しておくことは極めて重要です。

制度名 主な目的 保険料率(2025年) 負担割合 給付内容
SSS(社会保障制度) 年金・失業・障害・出産・死亡 給与の14% 会社9.5%、本人4.5% 年金、出産手当、失業手当など
PhilHealth(健康保険) 医療費補助 給与の5% 会社2.5%、本人2.5% 入院・手術・検査費などの補助
Pag-IBIG Fund(住宅・貯蓄) 住宅ローン支援・積立・短期ローン 給与の4% 会社2%、本人2% 住宅ローン、短期ローン、MP2貯蓄

4-2. 実務担当者が押さえるべき法的責任

✅ 雇用主の義務

  • 採用後30日以内に3機関への登録(SSS, PhilHealth, Pag-IBIG)

  • 毎月の保険料を適切に控除・納付

  • 月次報告書の提出(各制度における定型書式あり)

  • 未加入・未納・虚偽報告は罰金や法的責任の対象に

✅ 従業員の責務

  • 各制度に正しく登録されているか確認(ID番号の取得)

  • 自身の給与明細に控除項目が正確に反映されているか確認

  • オンラインポータル(MySSS/MyPhilHealth/Virtual Pag-IBIG)で履歴を管理


4-3. 日本との違いを理解するポイント

フィリピンと日本では、似たような制度でも仕組み・手続き・補助の内容が大きく異なります。以下の違いを押さえておくと、フィリピンでの給与計算や人事制度の整備がスムーズになります。

観点 フィリピン 日本
拠出上限 制限あり(上限給与に基づく) 高めに設定されており実質ほぼ制限なし
補助形式 定額補助(ケースごとに決まる) 割合ベース(医療費の7割など)
自営業者の制度 自主加入が主流 国民年金・国保に自動加入
ポータル対応 各制度ごとに独立(3サイト) マイナポータル等で統合傾向

4-4. 活用アドバイス:制度を「負担」ではなく「メリット」に変えるには?

  1. Pag-IBIG MP2の活用:年利6%超の利回りで教育資金・老後資金に最適。ボーナスや残業代の一部を回すのも◎

  2. PhilHealthの補助制度を事前確認:病院利用時に慌てないよう、提携医療機関と必要書類を把握

  3. SSS失業給付や出産手当を申請忘れしない:条件を満たせば数千〜数万ペソの支給を受けられる

  4. 従業員への説明義務を果たす:制度のメリットを伝えることで離職率や不満を減らせる

  5. 企業独自の上乗せ制度と組み合わせる:福利厚生の差別化に


4-5. チェックリスト:新規雇用時の手続きフロー(実務用)

項目 対応状況 備考
[ ] SSS番号の取得・登録 従業員が未登録なら支援する
[ ] PhilHealth番号の確認 オンライン申請可
[ ] Pag-IBIG MID番号取得 雇用主ポータルからも可
[ ] 月次給与への控除設定 会計システムで自動化推奨
[ ] 各制度への納付スケジュール管理 納期を超えるとペナルティあり
[ ] オンラインポータルの初期登録案内 自身の拠出履歴を確認できるように

終わりに:制度理解がフィリピンビジネスの第一歩

フィリピンにおける労働・雇用環境は、日本とは文化も制度も大きく異なります。特にSSS、PhilHealth、Pag-IBIGといった法定福利厚生は、雇用主・労働者双方にとって義務であり、権利でもあるという位置づけです。

これらの制度をただの「コスト」や「義務」と捉えるのではなく、従業員の生活支援・企業の社会的信頼・リスク回避に直結する重要な仕組みとして理解し、積極的に活用することが、健全で持続可能な事業運営につながります。

制度を正しく理解し、実践に活かすこと。それがフィリピンで働く、または経営するうえでの第一歩です。



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